6/28にオンラインイベント「Odooオープントーク - OdooのOSS活動に参加しよう!(理論編)」を開催しました。その要旨や背景にある問題意識、今後の展望などにつき説明します。
イベント開催経緯
コタエルではOdooに関する情報共有を促進する一つの試みとして、数ヶ月前から「Odooオープントーク」というオンライン雑談イベントを数週間おきに開催しています。参加人数は少ないですが、回を追う毎に少しずつ増えています。
今回のイベントは、もともと内容未定で開催日程だけ決めていたところ、某OdooパートナーさんにOSS活動のお誘いをした流れで、OdooのOSS活動に参加すべき理由を共有することをテーマにしました。
私としては以前から思い入れのあるテーマで、近頃日本で見られるOdoo社やパートナー各社からの発信やプラクティスが「実はOdooエコシステムにとってよろしくない方向にあるのでは?」という思いがじわじわと強まっていたこともあり、雑談イベントでありつつも、古くからOdooに携わっている私からのメッセージ性が強い会となりました。
せっかくだからということで、X上で他のいくつかのOdooパートナーにも声をかけてみましたが、反応がありませんでした。この記事を見られましたら、ぜひスライドをご覧いただければと思います。
なぜOdooのOSS活動に参加すべきなのか
私からのプレゼンの要旨は次のとおりでした。
1) Odooはオープンソースであることの利点を活かして成功したプロダクトでありつつも、昨今は「オープンソースの世界」と「プロプライエタリの世界」のバランスが崩れてきている(「共存」から「分断」に向かっている)
2) その理由として、オープンコアへの切替後にOdooに参入してきた人たち(Odoo社の人も含め)がOSS活動実績を持たないことが大きい
3) 「オープンソースの世界」が死ぬとユーザが不利益を被り、Odooエコシステムとして負のスパイラルに陥る
4) Odooに関わる皆で協力してOSS活動を盛り上げるべき
参加の皆さまも多くがOSSを利用したことはあるけれども、OSSコミュニティ活動に参加したことはないということで、「理屈としては分かるけど、じゃあ具体的にどうすればいいの?」という感想を持たれたようでした。
そこで、このイベントには続きがあります。7/19(金)18:00-19:00で開催予定のOdooオープントークにて、OSS活動に参加するための具体的な手続きやコツなどをお伝えする予定です。
オープンソースの本質的な価値とは
Odooはオープンソース(オープンコア)のプロダクトですが、オープンソースであることが、Odooエコシステムにどのように作用するかを正しく理解しているプレイヤーは、ユーザかパートナーかを問わず、わずかであるように思います。
ユーザにとって、基幹業務システムへの投資は一大事です。大きな金額がかかりますし、プロジェクトの成否が業務の生産性を左右し、ひいては事業の競争力にも大きく影響します。OdooはERPソフトウェアとしては高機能かつ安価な素晴らしいプロダクトですが、きれいに運用を回せるようになるまでには様々な困難も伴います。完璧なプロダクトなどありません。ましてや、Odooはもともと日本のマーケットに特化して開発されたものではないのです。課題は山ほどあります。
ユーザは、どういった課題があるのか、またOdooのパートナーがこれら課題の克服のために何ができるのか、に関心があります。
この関心に対して、他のプロプライエタリの業務システムの場合は、オープンな場での情報発信に制約が伴います。コードを外に出すことができませんし、サポートチャネルも閉じられています。コミュニティベースでソリューション構築するような場もありません。ユーザは出てくる課題のそれぞれにつき、個別にサービスパートナーのサポート受けて対処していくしかありません。情報の非対称性も相まり、導入費用も運用保守費用も高額になります。
ですがOdooは違います。オープンソースですので、「具体的」な情報の共有がしやすいプロダクトです。例えばコタエルでは次のような発信をよくしています。
限られた時間の中で、必ずしもユーザに分かりやすい発信でないこともあるのは認識しつつ、このように、課題内容と解決策をオープンな場でシェアします。
Odooはオープンソースプロダクトですので、Odooエコシステムを理解したうえで真剣にマーケットの課題に取り組むパートナーは、Odoo本体のGitHubレポジトリでイシューやプルリクエストを出しますし、グローバルのOdooのオープンソースコミュニティであるOdooコミュニティ協会(OCA)でも積極的に活動します。そういったパートナーからは、自ずと具体的な情報が発信されます。
よくセールストークとして、「オープンソースだから安い」や「オープンソースだからカスタマイズできる」といった切り口でOdooが語られることも多いのですが、オープンソースの本質は「情報がオープンに流通する仕組み」を備えていることであると考えています。オープンソースという言葉に紐づいて挙げられるすべてのメリットは、ここから副次的に生じるものです。
Odooパートナーからの情報発信のあるべき姿
皆さま、Odoo社やパートナー各社から出てくるユーザ向けの情報が、さしたる具体性なく、金太郎飴のようにOdooというプロダクトの優位性を語るものになっているように感じることがありませんか?私はよくあります。
ユーザの皆さまは、悪い意味で慣れてしまっているがゆえに、あまりそう感じないのかもしれません。皆さまが普段目にする、マーケットで主流なプロダクトではそれが当たり前の姿だからです。SAPもOracleも、勘定奉行も弥生販売も。それぞれパブリッシャーが自らのプロダクトの優位性を語り、パートナーも同じ歩調を保ちます。
Odoo社もパブリッシャーとして例外ではありません。それはそれでよいのです。パブリッシャーだから。
しかしながらマーケットで実際にユーザと向き合うOdooのパートナー各社からの情報発信がそのレベルにとどまるのは、本来期待される姿ではありません。Odooは「情報がオープンに流通する仕組み」を備えたオープンソースのプロダクトだからです。
OdooがERPソフトウェアとしては高機能かつ安価な素晴らしいプロダクトであることはたしかですが、私たちOdooパートナーは、パブリッシャーの謳い文句をコピペして拡散するだけはでなく、現状できていない点や制約など含め、自らの経験を通じて得た、もっと具体的で解像度の高い知見を発信すべきなのです。それがユーザやコミュニティのためになり、Odooエコシステムの発展に繋がりますから。
ユーザの皆さまも、ぜひこの感覚を持ってください。Odooに関する具体的な情報発信がパートナーからあるのが当然、という感覚です。これが非常に重要です。
「情報がオープンに流通する仕組み」を備えたオープンソースプロダクトを扱っているにもかかわらず、オープンな場で具体的な情報を出していないパートナーがいるとしたら、それが何を意味するのか、良く考えましょう。
OSS活動への参加者を増やせるか
本来であれば、Odoo社からエコシステム全体を俯瞰してOSS活動の側面含めナーチャーする動きをとるなり情報発信するなりの動きがあるとよいのだとは思います。特に日本ではOSS活動が根付く前にプロプライエタリ側が拡大し始めたこともあり、マーケットに出る情報のバランスが崩れがちです。
ですがそういうことも含めてのOdooエコシステムなのですよね。Odoo社もAGPL時代には相当苦しみ、2015年のオープンコアへの切替後盛り返して今日の成功にこぎつけた流れがあります。プロプライエタリ側の声が強まっているとはいえ、オープンソース側のチャネルもしっかり開いてはいる。そこにパブリッシャーにOSS活動を促進する動きを期待すること自体が甘えといえばそうなのかもしれません。ここはOdooパートナーはじめマーケットの事情をよく知るプレイヤーが主導すべきということなのでしょう。
ですので、コタエルとしてはあえて、この崩れがちなバランスを持ち直す方向で発信すべき、という立ち位置をとっています。今回のイベントを皮切りに、OSS活動への参加に興味があるプレイヤーを具体的にサポートする動きをとっていくつもりです。また、ユーザ向けにも啓蒙活動というと偉そうですが、オープンソースの本質である「情報がオープンに流通する仕組み」から派生するメリットを、引き続き自らの行動を通じてお伝えしていければと思います。
マーケットのバランサーとしての役割、何も私たちコタエルが単独で担うべきものでもありません。私たちがもっと力をつけてマーケットにより多くのオープンソース側からの情報を届けるというシナリオも当然考えられますが、できれば他のパートナーにも参加いただき、切磋琢磨しつつオープンな場で協働する流れができると、日本のユーザの皆さまに提供できる価値が広がり、日本でのOdooの浸透が加速度的に進む下地を作ることができます。そこを目指して地道に活動するのみです。
余談 - OSS活動は地方の方が盛り上がる?
今回のイベントで気付いたのが、参加者(全8名)の所在地の偏りでした。東京からの参加がゼロ。全て地方か海外からの参加でした。コタエルのウェブサイトのアクセスは、7割が東京からです。なのにその7割からは参加がゼロで、残りの3割から全員集まったということです。
たまたまという面も少しあるかもしれませんが、確率論的にはありえない偏りであるように思いました。これが何を意味するのか。雑に仮説的なものを出してみるとすれば、OSSコミュニティ活動は地方でこそ推進しやすい、ということです。
- コストが高い東京では営利に直結する行動が求められるため、短期的には金にならないOSS活動に目が向きにくい
- 地方では人材不足から自前でOdooのような複雑な仕組みに取り組む体制が構築しにくく、コミュニティとの協働が理にかなう
ということかもと感じました。こじつけに過ぎるでしょうか。
実はこういうところに地方の事業者にとっての活路がありそうにも思います。活動を継続しているとこのあたりの輪郭がはっきりしてくるかもしれません。
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